文責:平林 広
拝啓
東京大学運動会体操部OB・OGの皆様、部員の方々、いかがお過ごしでしょうか。この週末、駒場キャンパスは駒場祭で賑わっていましたので、トレーニング体育館での練習はございませんでした。自分にとって木金土日の4日間も部員と会わないということは珍しく、みなさんのご無事をただ祈ることしか出来ません。
敬具
さて、ブログの本題に入る前に、宴会係としてお願い申し上げたいことがございます。
実はもう忘年会までトレーニング体育館での土曜日の練習がございません。
なので、これを読んでいらっしゃるOB・OGの皆様、是非練習にお越しください。皆様の参加を心待ちにしております。そしていらしたときに是非、今年の忘年会(12/15、練習後)にご参加されるか教えてください。皆様に是非参加してほしいです…。
忘年会に参加される方で、練習にお越しになられない方は、shiganai.hiro@gmail.comまで連絡をください。
土曜日にまとまった告知を行えないので宴会係として危機を感じています…。
さてブログの本題を考える際に、自分の過去の記事を見直してみました。順に「自己紹介」「夏バテの注意喚起」「戯言」「初心」「知り合いの非局在化」であったのですが、色々変なこと考え変なことを実験している自分が、意外と体操の技術について書いていないことに気づきまして、今回は特に誰かを取り挙げることなく、なんとなく今の自分の考えていることを書いてみようと思います。(戒めも含めて)(実はとある1年生が書いたまとめに触発されたのは秘密)
スポーツのスキルには、相手が存在しないと成り立たない「オープンスキル」と自分だけで完結する「クローズドスキル」があります。サッカーなどのチームスポーツ、卓球などのラケットスポーツなどはオープンスキルが重要視される競技で、陸上や音楽演奏、スキージャンプなどはクローズドスキルが主です。もちろん体操も、だれに対しても同じ反応をする器具と、自由に動かすことの出来るはずの自分の身体だけで成立する競技なので、クローズドスキルしか存在しません。
今自分はスポーツ科学系の授業を取っているのですが、そこに出てくる実際の実験データは陸上のものが多く、オープンスキルが求められるスポーツでも、切り取って限定してクローズドスキルのように扱って考察をしているような気がします。
何が言いたいかというと、クローズドスキルの塊である体操競技はとても考察のしやすいスポーツであるということです。
身体のモデリングさえうまく行えれば、体操はすべて古典力学で記述する事ができ、高さが最大になる解などは正しく求められるはずです。ですから、最近は授業の一環で色々計算を頑張っているのですが、全然うまくいきません。まだまだ勉強の余地ありです。
如何に体操がスポーツ科学的に考えやすいかを述べたところで、自分が簡略化して考えていることを述べます。もし参考になれば幸いです。
・重心の運動
誰かの動きを真似したいときに、その人の重心(ほぼ腰にある)がどのように動いているかを考えます。重心を動かすことは大変なので、小手先のことより腰が近いラインをなぞっているか観察します。
・身体への力の伝わり方
器具に触れるのは腕、脚ですが、どのタイミングでどの方向にどれだけの大きさの力を貰っているかを考えることで、肘を伸ばす必要があるかとかどの方向に腕が向いているべきかとかを考えます。
・見える違いを引き起こしているものは何か
体操の基本はうまい人との「間違い探し」だと思っているのですが、この目に見える違いをただ近づけようとしてもその切り取った一瞬しか真似することは出来ません。何の違いがその目に見える違いを引き起こしているか考え、それを試してみます。
この3つが、自分が練習している時などに考えていることです。練習中ではいちいち数式を考えている時間はないので、とりあえず腰の位置ばかり見ていますね。
ですが、いったん家に帰った自分には紙という素晴らしい道具があるので、考察が止まりません。今まで考えてきて、現時点では自信をもって言える事と、最近懐疑的な事を記そうと思います。しかし体操は感覚論が多いので、真に受ける必要はないと思います。
ここからは理系分野です。文系の方は適当に、理系の方はお手柔らかにお願いします。
自信をもって言える事
・顎が開くと力が入らず、顎が引けると体に力が入る
頸性反射という反射が人体にはありまして、顎を開くと人は体に力が入りづらくなり、顎がしまえると良く力が入るらしいです。
・抱え込みは小さくすればするほど回る
角運動量の保存則からこれは明白ですね。小さくなれば慣性モーメントが小さくなるので角速度は大きくなります。
・宙返りの捻りは軸をずらしても行うことが出来る。
この説明はとても難しいです。実は床などからしっかりと縦回転だけを貰うと、捻りは捻っているように見えているだけで、横回転は一切していないのです。実際の床ではおそらく、フィギアスケートのように床から直接横回転を貰っている部分もあるので、「〜しても行うことが〜」とさせていただきました。
(参考:https://www.jstage.jst.go.jp/article/biomechanisms/10/0/10_KJ00004275224/_pdf)
・蹴りは刺せば刺すほど重心の鉛直方向移動距離は大きくなる(つまり高くなる)。
床から反力を貰っている間は重心が必ず上方向への加速度(力)が生じているため、(多分、大体)等加速度運動のように重心はふるまいます(つまり重心の速度がだんだん上がっていく)。この時床に触りだすときと離れるときの重心の高さが大きくなればなるほど飛び出す速度が大きくなるので、高さが出ます。
・蹴りの時に完全に膝が伸びていると高さが出ない
蹴っている間重心は上方向に正の加速度運動をするので、身体を棒のように重心を足の先を中心とした円運動をさせるのとは両立が出来ないと思います(ただしバネの伸び縮みやしなりを無視している)。
懐疑的な事
・引き上げは本当に要るのか
引き上げを意識した結果、多くの場合で高くなるので引き上げを行うことが十分条件であることはわかるのですが、器具から離れた瞬間に重心は自由落下運動しかしないはずなので姿勢は関係ないはずなんですよね。やはりフォロースルー的な何かなんでしょうか。
・胸をあてるとは
色々な宙返りで胸をあてると、高さが出たり回転をとめたり回転の軸が胸になったりと説明されますが、本当なんでしょうか。胸がそったところで胸が軸になっているように見えるだけだと僕は考えています。高さも回転にも影響はないはずです。やはりフォロースルー的な何か…。
・ダブルは肩で引っ張るとは
空中で肩だけ動かせるはずないんですよね…。
・吊輪、平行棒、鉄棒のヌキアフリとは
よく鉄棒を下に引っ張るとか言いますが、なんで真下では鉄棒にぶら下がっているだけの我々が鉄棒を下に引っ張れるのでしょうか。身体をそって重心から手までの距離を短くすることで、重心の位置は変えづらいから鉄棒がしなってくれるのでしょうか。でも鉄棒がしなったところで重心の運動は変わっていないので結局何のためにしならせるのでしょうか。
吊輪なんてもっと分かりません。ヌクという動作は何をしているのでしょうか。実は靭帯は腱と同様にゴムのような弾性を持ちます。肩の筋肉を弛緩させることで肩の靭帯を伸ばしているのでしょうか。
馬鹿みたいに曝け出してしまいました。後で読み直す未来の自分がどう考えているのか、今読んでいらっしゃる皆様がどう考えているかを考えるのがなかなか面白いですね。次の練習日には誰かから突っ込まれるのでしょうか。とても楽しみです。わくわく。
色々細かく書きましたが、体操は結局再現できれば何の文句もありません。自分は色々考えていますが、結局それが技につながらなければ意味がありません。ですので、最近は人に「考えろ」とはあんまり言わないようにしているのですが(嘘かもしれない)、もし何かに詰まっている人は、一度すべて分解してみてから考えるといいかもしれません。
ただし基本は「間違い探し」。