カナダさんの投稿に続きまして第二回はマ◯ピーマンことにしむらがお送りいたします。
運動スキルの獲得(運動の学習・記憶)における脳のシナプス可塑性の役割について。
シナプスの可塑性
可塑性とは一般的に「固定に力を加えて弾性限界を超える変形を与えたときに力を取り去っても歪みがそのまま残る性質」である。しかし脳の可塑性となると、その意味は多少異なり、脳の示す著しい柔軟性、融通性などの性質を一括して「可塑性」と呼んでいる。脳の構造や機能は内外界からの働きかけによって、ポジティブにもネガティブにも変化し続けるものである。その意味において「力を取り去っても歪みがそのまま残る性質」ではなく、きわめて柔軟なものであるといえる。
記憶や学習の研究では、古くからシナプスにおける伝達効率の変化がその基礎過程としてとらえられてきた。軟体動物アメフラシの神経系での異シナプス系促通、脊髄運動ニューロンへのlaシナプスで観察される反復刺激後増強、抹消神経切断後のlaシナプス伝達効率の変化、小脳プルキンエ細胞での長期抑圧(long-term depression, LTD)、さらには飼い葉での長期増か(long-term potentiation, LTP)に関する研究が進むにつれ、数分から数時間に及ぶ短期記憶のメカニズムとして、シナプスでの伝達効率の変化が生じていることが示されてきた。また、猫前肢での屈曲反射を利用した学習実験の結果から赤核におけるシナプスの発芽現象も報告され、この現象が数日から数週間に及ぶ長期記憶のメカニズムとして考えられている。さらに長期にわたる永続記憶については新しいタンパク質の合成が必要であるとされている。
小脳
脳神経系の中で、運動の内部モデルは小脳にあり、それは学習・記憶の細胞レベルでの基礎過程と言えるシナプス可塑性によって獲得されると推測されている。このシナプス可塑性を実験的に発現させる際には、刺激を反復して入力する必要があるが、これは運動の学習における反復練習に相似している。
小脳の皮質はどの部分をとっても一様な構造になっており、その構造は規則的でわずかに5種類の細胞と、二種類の入力線維で構成されている。それらの細胞や線維の形と配列を見ると、見事な幾何学模様あるいは結晶のような構造をなしている。このような均一な構造から、小脳の動作原理がどの部位でも共通であると直感的に見て取れる。小脳から信号を送り出す出力細胞は一種類だけであり、それはプルキンエ細胞と呼ばれる大型の細胞でその細胞体から多数の樹状突起が出ており、皮質に広がっている。それらの突起には外からの信号を受け取るシナプスがついている。細胞体からの出力は一本の軸索と呼ばれる線維によって出ており、それは小脳核へ向かって送られる。プルキンエ細胞の出力はその相手方であるターゲットの細胞を抑制するため、プルキンエ細胞は抑制性細胞である。
その他に小脳皮質には、三種類の抑制性の介在細胞があって、皮質内部で神経回路網を形成する。それらは、バスケット細胞、ゴルジ細胞、 および星状細胞である。小脳皮質の興奮性細胞は一種類しかなく、顆粒細胞という小型の細胞である。その役割は、小脳の外から来た入力信号を受け止めて、皮質内部に配給することである。小脳への入力系の一つである苔状線維から信号を受け取った顆粒細胞は、その出力を皮質の表面へ向けて送り、皮質表面では分岐して表面と平行に走る水平線維となる。その水平線維を介して、プルキンエ、バスケット、星状、ゴルジの四種類の抑制細胞にシナプス結合をし、それらを興奮させる。小脳へ入ってくる入力は二種類である。一つは前述したように苔状線維として入力し、顆粒細胞を興奮させる。苔状線維の起源は、脳幹と脊髄に存在する中枢である。この入力系は1.大脳から送られる情報 2.脳幹の情報 3.前庭神経の情報 4.脊髄を介する(筋・関節・皮膚の)身体情報を伝える。もう一つは登上線維と呼ばれる線維を介する入力で、その起源は脳幹の下オリーブ核である。登上線維は直接小脳皮質の表面までのぼり、プルキンエ細胞の樹状突起にまとわりつくように接続する。
小脳皮質の神経回路
このように小脳からの唯一の出力細胞であるプルキンエ細胞は、二種類の興奮性入力を受け取る。一つは苔状線維から入ってくる興奮系である。顆粒細胞は苔状線維の入力を受け取り、その出力細胞である軸索を小脳の皮質表面に送り、水平線維となってプルキンエ細胞の樹状突起に興奮性のシナプス接続をする。もう一つのは登上線維似よる入力ではプルキンエ細胞にきわめて強い電位の変化(脱分極)を生ずる。
バスケット細胞と星状細胞は水平遷移からの入力で興奮し、両者はその出力でプルキンエ細胞を抑制する。つまり水平線維を介する苔状線維系の入力のうち、直接プルキンエ細胞に接続するプラス入力と、抑制細胞を介する間接的なマイナス入力とのバランスが、最終的な出力であるプルキンエ細胞の活動レベルを決定することになる。一方ゴルジ細胞は顆粒細胞の入力でか活動が高まるが、その出力は顆粒細胞が苔状線維から入力信号を受ける部位に送られ、その入力を抑制する。これは負のフィードバック回路であって、顆粒細胞の過剰な興奮を抑える仕組みと見なされる。
苔状線維からの入力系の特徴は、入力の多様性である。一個のプルキンエ細胞に入力する顆粒細胞の数は平均役1,800個にも及ぶ。前述のように、入力側の顆粒細胞は水平線維となってた数のシナプス入力を送るし、受け取り側のプルキンエ細胞は樹状の突起をいっぱいに張り巡らして、シナプスの受け口を大量に持ち合わせている。結局顆粒細胞と接続するシナプスの数はプルキンエ細胞一個あたり八万個にも及ぶ。この顆粒細胞からプルキンエ細胞へのシナプス接続において、信号伝達の効率(どれだけの入力に対してどのくらいの大きさの出力が生ずるかという関係)が変化することがわかった。特にプルキンエ線維に強い脱分極が発生するとそのあとにシナプスの伝達効率は低下することが実験的に確かめられておりこの変化はいったんおこると長時間持続するので可塑的である。
小脳へのもう一つの入力である登上線維系は、前述のようにプルキンエ細胞にきわめて強い脱分極を生ずるが、そのような状態にあるときに、顆粒細胞からの入力があると、そのシナプス接続の伝達効率は下がることになる。この現象は、登上線維からの入力が入ったという事象をきっかけにして、プルキンエ細胞へのシナプス入力の効率という小脳の反応性がかわったということを意味する。この現象について原理的に考えると、登上線維からの入力信号を教師にして、顆粒細胞→プルキンエ細胞の信号伝達系がかわった、つまり学習したと解釈することが出来る。このような意味合いで、小脳は学習するといえる。
大脳基底核の働き
大脳皮質の一次運動野と高次運動野はそれぞれ視床の特定の部位と相互に結合子、興奮性回路のループで機能単位を作っているとみなされる。それらの機能単位は個々の運動ないしは運動を形成すると仮定する。その発現は、常に大脳基底核出力部の抑制性制御下にある。その抑制によって、機能単位が勝手に動き出さないようにブレーキがかかっている。その抑制を外すか、あるいはさらに抑制を強めるかは、直接系と関節系の作用を高めれば、それぞれが実現できることになる。線状体は大脳基底核から大量の入力を受け取っているので、その入力情報を統合し、それによって直接系と間接系の作用のしかたをきめることができる。大脳基底核は運動が適切に発現するように調節する仕組みとして理解されている。その働きは、随意的な性格の強い運動に対しても、生得的な、自動性の高い運動(例えば急速眼球運動や歩行など)に対しても有効になされる。大脳基底核は大脳皮質からの情報を広範に受け取り、出力を運動関連領域に送るので、自己の状態と自己を取り巻く外界の情報を受容し、その状況に適合した運動の発言を促し、それに合わない運動を抑止する機構と見なされる。さらに、感覚情報と運動発現を連合することを学習する機構としての働きが注目されている。特定の感覚情報を認知したときに、あるいは新しい状況に遭遇した際に、適切な運動を選択して行うことを学習し、それが行動のレパートリーとなるように、脳の内部にある神経経路の特性を変えることに、大脳基底核が関与するされている。
大脳皮質と基底核
運動学習の進行につれて皮質関連電位の発現およびその変化が分析されている。その結果によれば、運動学習の進行につれて皮質電位は大きくなり、電位の発現には新小脳ー視床ーVL核ー運動野の投射路が関与している。このような運動課題の学習では、対側の新小脳が運動野に教示を与えていることになる。結局、後頭葉への視覚入力は連合やの諸部位に伝えられ、それらが対側の新小脳の活動を生じさせている。訓練を続けると、大脳ー小脳ー視床ー運動野を結ぶ回路の効率が良くなり、運動技能は向上する。
大脳基底核ー補足運動野の回路は、系列運動学習との関連が指摘されている。この運動課題は、学習されるべき関係(目標と自己中心的座標との関係)が一定の地殻運動課題とは異なり、系列が初期には未定であるためと推定される。他方、中脳のドパミン・ニューロンの活動で示される報酬信号に対応した強化学習(報酬を得るため、目的指向的行動を試行錯誤で学習する過程)への関与も推定されている。大脳皮質は多くの感覚器官からの出力を統合して、そこから冗長性や不確実性を取り除き、行動に本質的な情報を抽出することにも役立っている。皮質内および皮質間の相互結合は、このような情報を短気記憶として保持している。結局、小脳は教師あり学習、基底核は系列運動の学習あるいは強化学習大脳皮質は教師無し学習を効率よく実現するために特化したという見解もある(銅谷2002)
相反神経支配
一つの神経路を通ってきたインパルスがシナプスを経過し、ニューロンの一部分に興奮、他方に抑制性の効果を与えるニューロン結合の事。主働筋に大脳皮 質からの指令で、ひとまずはアルファー運動ニューロンを興奮させ、その信号はガンマ運動ニューロンにも伝達され、活動が発生する。 これをアルファ・ガンマ連関という。主働筋に収縮が働き、筋紡錘や、腱紡錘に興奮が生じると、拮抗筋となる、筋群のアルファ・脊髄運動ニューロンは一個の介在ニューロンを介して、抑制が生じる。つまり主働筋群の働きによって拮抗筋の神経、活動が抑制されるのである。